大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和45年(家)2152号 審判

申立人 原田敏男(仮名)

相手方 伊東洋子(仮名)

主文

相手方は、申立人に対し、離婚による財産分与として、金二十六万五百円を支払え。

理由

一、申立人は、「相手方は、申立人に対し、離婚による財産分与として金四百万円を支払え」との審判を求め、その事由として述べる要旨は、

1、申立人は、昭和三五年四月一〇日相手方と挙式のうえ、事実上の夫婦として相手方の肩書住居において同棲することとなつたのであるが、同年五月一〇日相手方の養母伊東梅子の養子となり、養子縁組届出を了するとともに、相手方との婚姻届出を了した。

2、申立人は、相手方と婚姻前から○○卸問屋○○商店に勤務していたが、相手方と婚姻後も引続き右○○商店に勤務し、相手方は相手方養母伊東梅子の営む○○屋○○店の営業を手伝つていたのであるが、昭和四〇年一〇月頃相手方は突然発病し、当初は急性神経痳痺の病名で病院に入院し、その後精密診断の結果、先天性脳梅毒であることが判明した。

3、申立人は右診断の結果にショックを受け、一時は相手方と離婚する決意をしたが、相手方の心情を察して気の毒になり、離婚を思い止まり、相手方が六箇月間の入院治療の結果、病状の悪化は避けられ、通院して治療を受ければよい状態にまで恢復して退院したので、昭和四一年五月頃相手方および相手方の養母伊東梅子と相談し、申立人が自ら前記○○屋の営業に当ることとし、勤務先の○○商店を退職した。

4、申立人は、右○○店の経営をするに当り、それまで相手方の養母伊東梅子が代表者であつた有限会社○○屋を解散し、申立人名義の個人商店○○屋として営業をすることにし、自己の退職金や預金の中から合計金百三十万円を支出し、また相手方の養母から金百五十万円を支出させて、これらの金員をもつて店舗部分を増築改装するとともに、必要な商品を仕入れ、以後顧客の開拓等に努力し、店の売り上げも従前は一日約金五千円ないし一万円であつたのを約金四万円程度にする等、大いに営業成績を伸ばし、毎月相手方の養母伊東梅子に小遣いとして約金二万円、相手方に生活費として約金五万円を渡していた。

5、ところが、相手方の養母伊東梅子と相手方とは、かかる申立人の努力を理解しようとせず、とくに相手方の養母と申立人との折り合いが悪く、申立人としては、前記の如き病気をもつ相手方とこれ以上生活をともにしても子が生まれる見込もなく、将来に期待がもてないので、相手方との離婚を決意し、昭和四四年八月二〇日頃相手方住居を立ち去り、以後相手方と別居状態となつた。

6、申立人は、別居後相手方と協議離婚し、かつ、相手方の養母と協議離縁するため、相手方および相手方の養母と数回話しあつたが、双方とも離婚、離縁の点では意見が一致するものの、申立人が財産分与および慰謝料の支払を求めたのに対し、相手方および相手方の養母は、その支払を拒否し、かえつて申立人に対し慰謝料の支払を請求するので、結局話しあいがつかず、申立人は昭和四四年一〇月一日東京家庭裁判所に対し、「相手方との離婚、相手方の養母との離縁を求める。相手方および相手方の養母は、申立人に対し、相当額の慰謝料および財産分与を支払え」との調停を申し立てた。

7、しかし同裁判所の調停においても、相手方および相手方の養母は、離婚および離縁については同意しながら、慰謝料および財産分与の支払を拒否し続け、かえつて申立人に対し慰謝料の支払を要求するので話しあいがつかず、やむなく昭和四五年二月二四日の調停期日において、「申立人と相手方とは、調停により離婚する。申立人と相手方の養母とは、調停により離縁する。離婚による慰謝料・財産分与、離縁による慰謝料については、協議が調わないので、離婚および離縁による慰謝料については別途地方裁判所に訴訟を提起して解決し、離婚による財産分与については、別途家庭裁判所に審判の申立をして解決する」旨の調停を成立させた。

8、そこで、申立人は、右調停条項に基づき、相手方との離婚による財産分与について解決を求めるため、本件申立に及んだ。

9、申立人は、前記の如く、○○屋の経営をするに当り、店の増築改装に約金五十万円、店品の仕入れに約金八十万円、合計金百三十万円を自己の退職金や預金の中から支出しているほか、相手方と婚姻後○○商店に勤務中約六年間毎月平均約金三万円ないし四万円を相手方の養母伊東梅子に渡し、将来申立人が店の営業をする際の資金として貯金をしてもらつていたが、これが少なくとも金百五十万円となつておるので、この金員を、また申立人と相手方とが婚姻中に、共同使用するため購入した家財道具が合計金百五十七万二千円に及んでいるので、その半額金七十八万六千円を、更に別居当時の○○屋の在庫商品が約二百五十万円相当であるので、その半額約金百二十五万円を、申立人は相手方からそれぞれ財産分与として支払を受ける権利を有していると考えられ、以上を合計すると財産分与の額は金四百八十三万六千円に達するが、申立人は金四百万円の限度においてこれを請求することとする。

というにある。

二、昭和四四年(家イ)第五、四六一・五、四六二号夫婦関係調整、離縁事件記録、本件における各戸籍謄本、家庭裁判所調査官補近藤弘作成の調査報告書並びに申立人および相手方に対する各審問の結果によれば、次の事実が認められる。

1、申立人は、東京都○○○区○○○△丁目○番○号所在○○○卸問屋株式会社○○○○に勤務中、同会社の取引先であつた相手方の養母伊東梅子が経営する東京都○○○区○○○△丁目○○番地所在○○小売店有限会社○○屋に出入りしている間に、昭和三四年一〇月頃右伊東梅子の営業を手伝つていた相手方と知り合い、交際するようになり、相手方の養母伊東梅子は、申立人の身許調査をしたのち、申立人に対し相手方と婚姻し、相手方の養母伊東梅子の養子となることを望んだので、申立人も親族と相談したうえ、これを了承し、昭和三五年四月一〇日相手方と結婚式を挙げて、相手方と相手方の養母伊東梅子とが共同所有する肩書住宅兼店舗において同棲し、同年五月一〇日適式に相手方の養母伊東梅子と養子縁組届出を了するとともに、相手方との婚姻届出をも了したこと。

2、申立人は、相手方と婚姻後も引続き前記○○○○に勤務し、相手方の養母伊東梅子と相手方とは、前記○○屋の営業に当つていたこと。

3、相手方は、昭和四〇年一〇月頃突然発病し、急性神経痳痺の病名で○○○大学附属病院に入院し、精密診断の結果先天性脳梅毒であることが判明したが、約六箇月の入院治療により病状の悪化は避けられ、退院して時々通院のうえ治療を受ければ足りる状態にまで恢復したこと。

4、申立人は、右診断の結果を知つた際には、大きなショックを受け、一時は相手方と離婚する決意をしたのであるが、相手方の立場を察して気の毒になり、離婚を思い止まり、相手方が昭和四一年四月頃退院したので、相手方および相手方の養母と相談のうえ、相手方の義母は前記○○屋の営業から手を引き、申立人が自ら前記○○屋の経営に当り、相手方がこれを助けることになり、同年五月頃申立人は勤務先の○○○○を退職し、相手方の養母が代表者である有限会社を解散し、その営業形態を申立人名義の個人商店○○屋に改めたこと。

5、申立人は、右○○店の営業をするに当り、自らの退職金預金から支出した金員と相手方の養母が提供してくれた金員とをもつて、相手方と相手方養母とが共同所有する住宅兼店舗の店舗部分を改装増築したうえ、商品を仕入れて、店員二名を雇い、顧客の開拓に努力した結果、営業成績も順調に伸び、毎月相手方の養母に小遣いとして金二万円を、相手方に生活費として金五万円を、それぞれ手交していたこと。

6、ところが、申立人は、昭和四三年秋頃から同年六月頃○○屋の店員として勤務することになつた相手方の異母妹林元子(夫林信一との間に子二人がある。)と懇になり、昭和四四年四月三〇日家出した右林元子を同年五月二日以来ひそかに自ら借り受けた東京都○○区○○○○町○丁目○番地のアパートに居住させ、以後時々右アパートを訪問し、同女との間に婚姻外関係を生じ、外泊ないし深夜帰宅をすることが多くなり、家業にも余り身を入れなくなつたこと。

7、申立人は、右林元子の身を案じる夫林信一、相手方および相手方の養母から同女の行方を尋ねられても、全く同女の行方を知らないといい張り続け、昭和四四年八月二〇日になり、突然相手方および相手方の養母に対し、「本年一月頃から家を出ようと思つていた。相手方に対して愛情がなくなり、相手方の養母とも意見が合わなくなつたので、今後相手方と生活を共にしてもうまく行かない」と言明し、店の売上金と自動車とをもつて家出し、同日以来前記林元子と前記アパートにおいて、同棲するに至つたこと。

8、申立人と相手方とは、申立人が家出した後同年八月二三日に相手方の養母、申立人の実兄、および仲人を交えて話し合つたが、申立人は「相手方と離婚し、相手方の養母と離縁するほかない。このようになつた責任はもつぱら相手方と相手方養母にあるから、慰謝料および財産分与として金九五四万円を要求する」と主張し、これに対し、相手方と相手方養母とは、かかる支払を拒否し、話し合いはつかなかつたこと。

9、申立人は、昭和四四年一〇月一〇日東京家庭裁判所に対し「相手方との離婚、相手方の養母との離縁を求める。相手方および相手方の養母は、申立人に対し、相当額の慰謝料および財産分与を支払え」との調停を申し立てたこと(同裁判所昭和四四年(家イ)第五、四六一・五、四六二号事件)。

10、右事件の調停は、昭和四四年一一月一二日以後昭和四五年二月二四日まで、前後四回の調停期日に行なわれたが、申立人と相手方との間および申立人と相手方の養母との間において、離婚、離縁については、意見が一致するものの、申立人が離婚および離縁による慰謝料、財産分与として金四百万円の支払を要求するのに対し、相手方および相手方の養母は一切かかる金員の支払には応じかねると主張し続け、当裁判所調停委員会は、やむなく昭和四五年二月二四日の調停期日において、「申立人と相手方とは、本調停により離婚する。申立人と相手方の養母とは、本調停により離縁する。離婚による慰謝料および財産分与並びに離縁による慰謝料については、協議が調わないので、離婚および離縁による慰謝料については別途地方裁判所に訴訟を提起して解決し、離婚による財産分与については別途家庭裁判所に審判の申立をして解決する」旨の調停を成立させたこと。

11、申立人は、右調停条項に基づき、相手方との離婚による財産分与について解決を求めるため、本件申立に及んだのであるが、これまでのところ、申立人は離婚による慰謝料および離縁による慰謝料について地方裁判所に訴訟を提起していないし、また相手方および相手方の養母も右慰謝料について地方裁判所に訴訟を提起していないこと。

12、かねてから申立人と前記林元子との関係に疑念を抱いていた前記林元子の夫林信一は、当裁判所における前記事件の昭和四五年二月一二日の調停終了後帰宅する申立人の跡をつけ、申立人と前記林元子とが当時同棲していた前記アパートを突止め、同日前記林元子を連れ戻したため、以後申立人と前記林元子との婚姻外関係は事実上解消され、申立人は前記アパートを引き払つて肩書住居に居住し、現在友人の経営する○○経営指導部に勤務し、毎月四、五万円の収入をえていること。

13、相手方は、申立人が家出した後、相手方の養母の協力をえて、前記○○屋○○店の経営に当つていること。

三、前記認定事実によれば、申立人と相手方とは、調停離婚しているのであるから、申立人が相手方に対して抽象的に財産分与請求権を有していることは明らかであるが、申立人の相手方に対する具体的な財産分与請求権は、当事者間において協議が調わない以上、当裁判所が当事者双方がその協力によつてえた財産の額その他一切の事情を考慮して、これを定めるべきものである。

ところで、財産分与請求権の性格については、種々の見解が対立しているが、当裁判所は、財産分与請求権は、離婚に際して夫婦財産の清算を請求する権利(清算的財産分与請求権)を中核とし、これに離婚後の扶養を請求する権利(扶養的財産分与請求権)および離婚そのものによる慰謝料請求権とが複合する包括的な離婚給付請求権であると解するのが相当であると思料する。

かかる見解によつて、本件をみるに、申立人は、前記認定事実によれば、既に一定の職業を有し、相当の収入を挙げているのであるから、離婚後の扶養を考える必要はなく、また、前記認定事実によれば、本件離婚は、直接には申立人の不貞行為によつて招来され、申立人が主要な責任を負うべきであるというべきであるから、申立人が離婚そのものによる慰謝料を請求することができないことは明らかであり、したがつて本件の財産分与においては、もつぱら夫婦財産関係の清算のみを考慮すれば足りるというべきである。

そこで、本件において、夫婦財産関係の清算としての財産分与の対象となるべき財産について検討する。

1、不動産関係

本件記録添付の各登記簿謄本、各固定資産課税台帳登録証明書、家庭裁判所調査官補近藤弘作成の調査報告書、申立人および相手方審問の結果によれば、申立人にはその所有名義に属する不動産はなく、相手方は、

(1)  単独所有名義の

東京都○○○区○○○△丁目○番○○

宅地三四坪(一一二・三九平方米)

(2)  相手方の養母と共有名義(持分相手方三分の二、相手方の養母三分の一。もつとも、登記簿上は伊東とめ子、相手方、相手方養母各持分三分の一の共有となつているが、当裁判所昭和四四年(家イ)第五、四六一・五、四六二号夫婦関係調整、離縁事件記録添付の戸籍謄本によれば、右伊東とめ子は相手方と同様に相手方の養母伊東梅子その亡夫伊東秀明の養女であるが、昭和三八年一二月一一日確定した戦時死亡宣告の審判によつて昭和二八年三月二〇日に死亡したものとみなされており、したがつて相手方三分の二、相手方の養母三分の一の共有とみるべきものである。)の、現に相手方および相手方の養母が居住している、

東京都○○○区○○○△丁目○○番地○所在、家屋番号同町一六番

木造瓦葺平家建店舗兼居宅一三坪九合二勺(四六・〇一平方米。後述する如く、もと店舗部分が

約六坪であつたのが、昭和四一年五月に約一五坪に増築され、また、昭和三九年頃居宅部分は、

約八坪から二階建約二〇坪に増築されている)

(この家屋の敷地一〇八・三四六五平方米は、相手方養母が件外大田和好より賃借している。)

を有していることが認められる。

しかしながら、(2)の家屋は、前記登記簿謄本によつて明らかな如く、相手方と相手方の養母とが、昭和二九年一月二七日相手方の養父亡伊東秀明の死亡による相続によつて取得したものであり、相手方が申立人の協力によつて婚姻中に取得したものでなく、また(1)の宅地は、登記簿上は、相手方が申立人と婚姻後の昭和三五年七月一四日に東京都○○○区○○○△丁目○○番地○○に居住する山崎邦夫から売買により所有権を取得したと記載されているが、相手方が提出した山崎邦夫作成の証明書および相手方代理人の陳述によれば、相手方の養母が現に所有するアパートを建築するための敷地として、右山崎邦夫から昭和三三年五月頃まず右宅地のうち一七坪を買受け、更に昭和三五年三月頃残りの一七坪をも買受けたうえ、これを一括して相手方に贈与したものであり、所有権の移転登記手続が申立人と相手方との婚姻後である昭和三五年七月一五日になされ、かつ、右山崎邦夫から相手方の養母に売買し、更に相手方の養母から相手方に贈与したと登記するのを省略して、右山崎邦夫から直接相手方に売買したものと登記したため、売買の日時も同年七月一四日としたものであることが認められ、そうだとすれば、相手方は、いずれの物件をも申立人との婚姻前に取得したものであるから、これらの物件は、直接財産分与の対象となるべきものではないというべきである。

もつとも、申立人は、前記認定事実によれば、昭和四一年五月頃自ら○○屋○○店の営業をするに当り、右(2)の建物の店舗部分約六坪を約一五坪に増築改装したが、この費用として申立人自らその退職金や預金から若干の金員を支出しているのであつて、この点は、財産分与として考慮されなければならない。

相手方の提出した財産分与対象財産一覧表および相手方代理人の陳述によれば、申立人は昭和四一年度の所得税の申告に当り、昭和四一年五月に○○屋○○店の増築改装費用として金一百三万五千二百九十円を支出したとしており、他にこれを覆えすに足りる証拠もないので、増築改装の費用は右の金額どおりであると認めざるをえず、また相手方の提出した財産分与対象財産一覧表、斉藤春男作成の証明書および相手方代理人の陳述によれば、右増築改装に要した費用のうち、金五〇万円は、相手方の養母伊東梅子が自己所有の宅地(○○○区○○○△丁目○○番地の○)二一坪五合を斉藤春男に売却した代金一百五十五万五千円のうちから支出していることが認められ(もつとも申立人は、この相手方の養母伊東梅子が支出した金員も、申立人において会社に勤務中、毎月三万円ないし六万円を相手方養母に渡していたものを相手方養母において預金していたから、その預金中から支出したのだと主張し、当裁判所の審問の際申立人はこれに副う陳述をしているが、措信しがたく、他にそれを認めるに足る証拠もない。)、また申立人が提出した株式会社○○○○作成の申立人に対する退職所得の源泉徴収票および株式会社○○銀行○○○支店作成の残高証明書並びに申立人に対する審問の結果によれば、申立人は昭和四一年五月株式会社○○○○を退職するに当り、金六一万二千五百円の退職金(二千五百九十円の所得税を含む)を受領しており、また○○銀行○○○支店に昭和四一年五月二三日当時残高八万六千四百五十六円の指定金銭信託を有しており、申立人はこれらの退職金および金銭信託のうちから、前記増築改造に要した費用のうち、相手方養母の負担した額をのぞく、金五十三万五千二百九十円を支出したことが認められる。

右の申立人の支出によつて相手方および相手方養母の共有にかかる前記家屋は、その価額を増加しているのであつて、清算的財産分与として、相手方から右金五十三万五千二百九十円は申立人に返還されなければならない(相手方は、返還すべき価額は、その後別居まで約三年、離婚まで約四年を経過しているので、減額されるべきであり、再評価すべきものであると主張しているが、その後の工事代金の値上り等を考慮すれば、当時出損した額に相当する利益が現在もなおそのまま存しているとみるのが相当である)。

2  動産関係

イ、家財道具および営業用備品

相手方の提出した財産分与の対象財産一覧表並びに申立人および相手方に対する審問の結果によれば、申立人は、相手方との婚姻生活および営業に供するため、昭和四二年度においてクーラー一台(金一五万円)、レジスター一台(金一九万円)、カラーテレビ一台(金九万円)、書類箱(一万五千円)および乗用車一台(トヨペット・コロナ一五〇〇、金七〇万円)を、昭和四三年度においてマイクロテレビ一台(金四万五千円)、電気冷蔵庫一台(金四万六千円)、電気洗濯機一台(金二万五千円)を購入しており、申立人は昭和四四年八月二〇日別居するに際し、右の乗用車一台を持ち去り、他の物件はそのまま相手方の家屋内に現存していることが認められる。

これらの物品は、いずれも購入後二、三年を経過し、損耗しているので、時価に再評価すべきであり、離婚時においては、昭和四二年度購入の物品については購入額の約三割、昭和四三年度購入の物品については購入額の約四割と再評価するのが相当であり、これによると、昭和四二年度購入の物件の合計の離婚時における評価額は金三十四万三千五百円、また昭和四三年度購入の物件の合計の離婚時における評価額は金四万六千四百円となる。

この合計額金三十八万九千九百円が財産分与の対象となる物件の評価額であり、申立人はその半額に当る金十九万四千九百五十円を取得すべきであるが、前記の如く乗用車一台金二十一万円を持ち去つているので、かえつて相手方に対し、金一万五千五十円を返還すべきものである。

ロ、在庫商品

相手方の提出した財産分与対象財産一覧表、相手方代理人作成の売上、仕入一覧表、相手方代理人作成の昭和四四年七月末、昭和四五年二月末棚卸推計表によれば、申立人が相手方と別居した昭和四四年度八月二〇日当時の在庫商品は約金百二十九万円相当であり、また申立人が相手方と離婚した昭和四五年二月二四日当時の在庫商品は約金一百九十五万円であると推定される。申立人は○○屋○○店の営業を放棄し別居以後、その営業にあたつていないのであるから、在庫商品については離婚時のものでなく別居当時のものが、財産分与の対象となると解するのが相当である。したがつて、相手方は申立人に対し、その半額にあたる金六十四万五千円を支払うべきものである。

なお、申立人は、自ら○○屋○○店の営業をするに当つて、店舗の増築改装の費用を支出したほか、自己の退職金や預金の中から約八十万円程商品の仕入れに支出したから、相手方は申立人に対しこの約八十万円を財産分与として返還すべきであると主張し、これに対し、相手方は、商品の仕入れには金百万円を要し、この費用はすべて相手方の養母伊東梅子において支出し、申立人は全然支出していないと抗争している。前記認定の如く、申立人は店舗の増築改装の費用として退職金六十一万二千五百円および若干の金銭信託の中から、金五十三万五千二百九十円を支出しており、したがつて、商品の仕入代金として若干は支出しているものと推測されるが、その後申立人と相手方とは、申立人および相手方養母が支出した費用で仕入れた商品をもつて営業して生活し、数年を経過したのであるから、財産分与の対象となるのは、別居時の在庫商品のみで営業開始当時の商品の仕入れ代金を云々する必要はないというべきである。

3  預金関係

申立人は、自ら○○屋○○店の営業をしている間、営業上の利益金を○○○信用金庫の申立人名義の普通預金口座および○○銀行○○○支店の江川信男(虚無人)名義の普通預金口座に預金しており、相手方と別居した昭和四四年八月二〇日当時、右○○○信用金庫の預金が約金三十万円、○○銀行○○○支店の預金が、約二、三十万円あつたと主張している。

しかしながら、相手方の提出した○○銀行作成の書面によれば、申立人は江川信男(虚無人)名義で○○銀行○○○支店に普通預金口座を有し、その預金額は、昭和四四年五月一日当時金四二万七千五百円であつたが、申立人は同日これを解約し、全額の払戻しを受けており、したがつて別居時にもまた離婚時にも右普通預金口座に預金額は存在しないことが認められる。また、相手方の提出した○○○信用金庫の申立人名義の普通預金元帳の写しによれば、申立人は右信用金庫に申立人名義の普通預金口座を有し、その預金額は昭和四四年六月二〇日当時三十一万一千一百二十四円であり、申立人は同日金十五万円、同年七月八日金十万円、同年七月三一日金一万七千三百円、相手方と別居した同年八月二〇日金四万三千円をそれぞれ払戻しをしており、右別居時の残高は金八百二十四円、離婚時の残高は金四百四十一円であることが認められる。

なお、相手方の主張によれば、○○銀行にも小額の申立人名義の預金があり、これも申立人において払戻しを受けているとのことであるが、相手方において同銀行に照会しても、これを裏付ける資料がえられず、申立人も相手方もこれを財産分与の対象としないことに同意しているので、当裁判所としてもこれ以上追及してその調査をせず、右預金を財産分与の対象としないこととする。

そして、申立人の各預金からの払戻しは、申立人および相手方の審問の結果によれば、昭和四四年七月三一日の金一万七千三百円の払戻しは税金支払のためであるが、それ以外は、もつぱら申立人が自らの費消のためであることが認められる(もつとも、申立人は、そのうち若干は商品の仕入れ代金にあてたと陳述しているが、この陳述は措信しがたい)。

そうだとすれば、申立人と相手方との別居時である昭和四四年八月二〇日当時、もし申立人の自らの費消のための払戻しがなかつたとすれば、合計金七十二万一千三百二十九円の預金(311,241円-17,300円+427,505円 = 721,329円)があつた筈であるから、同金額の預金が財産分与の対象となるべきである(財産分与の対象となる財産の額を決定する基準時は、一般には離婚時と解すべきであるが、本件の如く、離婚前に申立人がそれまでの営業活動を放棄して別居した場合の如きにおいては、別居時であると解するのが相当である)。

右の預金七十二万一千三百二十九円は、実質的に申立人と相手方との共有の財産と考えられるので、申立人は、本来その半額にあたる金三十六万六百六十五円を取得すべきものである。しかしながら、申立人は、既に金七十二万五百五円を払戻して、自己の用に費消しているのであるから、かえつて、相手方に対し三十五万九千八百四十円を返還すべきものである。

4  債務関係

相手方の提出した財産分与対象財産一覧表並びに申立人および相手方審問の結果によれば、申立人と相手方とが営業をしていた当時の買掛金債務(仕入洋品に関する)が合計金八万九千八百十八円存し、これを相手方において申立人と別居後全額支払つていることが認められる。したがつて、申立人は相手方に対し、その半額金四万四千九百九円を返還すべきものである。

四  以上を総合すれば、相手方は申立人に対し清算的財産分与として合計金七十六万五百円(百円未満四捨五入。――535,290円-15,050円+645,000円-359,840円-44,909円 = 760,491円)を支払うべきであるといわなければならない。

しかしながら、ここに考慮を要するのは、本件離婚が、申立人の不貞行為というその責に帰すべき原因に基づくものである点である。相手方は、この点について別個に慰謝料請求の訴訟を提起していないのであるが、前記認定事実によれば相当額の慰謝料を認められるべきである。当裁判所は、この点を斟酌し、前記認定事実により、相手方が申立人に支払うべき清算的財産分与の額は、金五十万円程度減額されて然るべきであると思料する。

よつて、相手方は申立人に対し前記金額より金五十万円を減額した金二十六万五百円を清算的財産分与として支払うべきであるから、主文のとおり審判する次第である。

(家事審判官 沼辺愛一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例